設備用エアコンとは?用途・選び方・導入のポイントを徹底解説

工場や倉庫、病院、大型商業施設などでは、一般的な業務用エアコンでは対応しきれない環境条件が多く存在します。高温・多湿、粉塵、油煙、清浄度の確保といった要素が重視される現場では、専用設計された「設備用エアコン」の導入が効果的です。しかし、種類が多く、用途に応じた選定やコスト比較に悩む方も少なくありません。

そこで今回は、設備用エアコンの基礎知識から、適した設置環境、機種選びのポイント、導入の流れや費用相場までを詳しく解説します。最適な空調環境の構築に向けて、導入検討の参考にしてみてください。

設備用エアコンとは?

設備用エアコンとは、工場や倉庫、病院、研究施設など、特殊な環境での使用を前提に設計された空調機器のことです。一般的な業務用エアコンとは異なり、高温・多湿、粉塵、油煙、薬品、騒音、振動といった過酷な条件下でも安定して稼働できる耐久性と性能が求められます。

また、広い空間や天井の高い構造にも対応できるよう、冷暖房能力や送風設計にも工夫が施されています。例えば、大風量や高出力設計によって、空間全体を均一に冷暖房できるように設計された機種もあります。

さらに、空気の清浄性が求められる場所では、高性能フィルターや外気処理機能を搭載したモデルが選ばれます。

業務用エアコンとの違い

設備用エアコンと業務用エアコンは、いずれも法人向けの空調機器ですが、対応する環境や求められる性能に明確な違いがあります。オフィスや店舗に導入される業務用エアコンは、主に快適性を重視した冷暖房が目的です。

一方で、設備用エアコンは工場や倉庫、研究施設など、温湿度管理が難しい過酷な環境を想定して設計されています。耐久性や制御機能、フィルター性能に優れており、安定した運転が求められる現場に適しています。

例えば、高温・多湿や粉塵が舞う空間、油煙が発生する作業場、あるいは高い清浄度が求められる病院やクリーンルームでは、設備用エアコンのほうが適しているケースが多く見られます。

さらに、機種によっては換気機能や外気処理機能、24時間連続運転に対応するなど、専門性の高い仕様が備わっているのも特徴です。

設備用エアコンを導入すべき環境

設備用エアコンは、過酷な環境や特殊な空調ニーズに対応するために開発された空調機器です。ここでは、設備用エアコンの導入が特に効果的な環境について紹介します。

高温・多湿な工場内環境

高温・多湿な工場内では、一般的な業務用エアコンでは対応しきれないケースが多く、設備用エアコンの導入が効果的です。生産ラインや機械から発生する熱に加え、蒸気や排気による湿気が蓄積することで、室温の上昇や結露、さらには機器の誤作動など、さまざまなリスクを引き起こします。

設備用エアコンは、こうした過酷な環境下でも安定して稼働できるよう、耐熱性や防湿性に優れた設計が施されているのが特長です。例えば、冷却性能が高く、除湿機能を強化したモデルを選べば、作業者の熱中症リスクを軽減しながら、製品や機器の品質維持にもつながります。

粉塵や油煙が発生する作業現場

金属加工や木工、食品製造などの作業現場では、日常的に粉塵や油煙が発生するため、空調機器にとっては過酷な環境といえます。こうした現場に一般的な業務用エアコンを設置すると、内部に粉塵や油分が蓄積しやすく、フィルターの目詰まりや故障の原因になることがあります。

設備用エアコンは、このような環境での使用を前提に設計されており、防塵・防油対策が施されたモデルが多くラインアップされています。例えば、高性能フィルターや油煙対応の吸込グリル、耐腐食性の高い塗装を備えた製品であれば、機器の稼働を安定させ、長期的な使用にも対応できます。

また、定期的な清掃や部品交換がしやすい構造になっているため、メンテナンス性にも優れているのが特長です。

清浄な空気が求められる病院や食品工場

病院や食品工場など、衛生管理が厳格に求められる施設では、空気中のホコリ・菌・臭気の制御が重要な課題です。こうした施設では、外気の取り込みや空調を通じて、常に清浄な空気を保つ必要がありますが、一般的な業務用エアコンでは対応が難しいケースも少なくありません。

設備用エアコンには、HEPAフィルターや高性能除塵フィルターを備えた機種があり、微細な粒子や浮遊菌の除去に適しています。さらに、温湿度の安定制御に優れ、無菌室や製造ラインといった精密な環境にも対応可能です。クリーンルーム規格に準拠したモデルもラインアップされており、施設の基準に応じた柔軟な機種選定が行えます。

広い空間や高天井空間

倉庫や体育館、工場といった広さや天井の高さがある空間では、一般的な業務用エアコンでは十分な冷暖房効果を得られないことがあります。空気の対流が起きにくく、空調が届くまでに時間がかかるほか、室内に温度ムラが発生しやすいためです。

その点、設備用エアコンは大風量かつ高出力の設計が可能で、広い空間でも均一に空調できる性能を備えています。さらに、天井の高い位置に設置されるケースを想定し、強力な送風能力やリモコン操作、フィルターの自動清掃機能など、メンテナンスのしやすさにも配慮された仕様となっています。

なかには、天井高が5メートルを超えるような環境にも対応できるモデルもあり、冷暖房効率の大幅な改善が見込めます。

冷温を一定に保つ必要がある倉庫やバックヤード

温度管理が求められる倉庫やバックヤードでは、冷暖房の効率性よりも「一定の温度を安定して保つこと」が重視されます。食品や医薬品、精密機器などを保管するスペースでは、急激な温度変化が品質や性能に悪影響を与える可能性があるためです。そのような環境には、精密な温度制御が可能な設備用エアコンが適しています。

設備用エアコンは、外気の影響を抑えられる構造に加え、連続稼働による微細な温度調整機能を備えており、季節や時間帯による気温の変化にも柔軟に対応できます。また、断熱性の低い空間や、大型の搬出入用ドアが設置された場所であっても、高出力の機種を選ぶことで、室温の安定を図ることが可能です。

熱を発するサーバールーム

サーバールームでは、常に電子機器が稼働しているため、室温が上がりやすく、安定した温度管理が欠かせません。わずかな温度上昇でも、サーバーの処理能力が低下したり、最悪の場合はシステムが停止する恐れもあります。そのため、温度や湿度を高精度に制御できる設備用エアコンの導入が適しているといえるでしょう。

設備用エアコンは、冷却能力に優れ、連続運転にも対応できる設計です。サーバールームのように24時間365日の稼働が必要な環境でも、安定した運用が可能です。さらに、機種によっては温度ムラを抑える送風設計や、過剰冷却を防ぐインバーター制御を備えており、省エネ性と信頼性の両立が図れます。

設備用エアコンの種類

設備用エアコンには、使用環境や目的に応じてさまざまなタイプが用意されています。例えば、粉塵や油煙が多い工場、清浄な空気が求められる医療・食品関連施設、温湿度管理が厳しいサーバールームなど、用途ごとに特化したモデルがラインアップされています。

以下の表では、代表的な設備用エアコンの種類とその主な特徴を紹介します。

種類主な特徴・用途
工場用設備エアコン粉塵・油煙対策や耐久性に優れ、過酷な作業環境でも安定稼働。
一般設備用エアコン倉庫・バックヤードなど多用途向け。省エネ・低騒音モデルもあり。
オールフレッシュ型設備エアコン外気を100%取り入れて空調。換気と空調を一体化した施設に最適。
電算機室向け設備エアコン精密な温湿度制御に対応。サーバールームや通信室向け。
中温対応設備エアコン食品・生花などの中温保管空間向けに、安定した冷却を提供。
スポットタイプ設備エアコン必要な場所だけを冷却・加熱。作業台やライン向け。
水冷式パッケージエアコン水を使って熱交換。冷却塔と併用することで高効率化が可能。
ビル用マルチ型設備エアコン複数の室内機を1台の室外機で運転。中〜大規模施設に最適。

設備用エアコンの選び方

設備用エアコンは、設置環境や使用目的によって最適な機種や仕様が大きく異なります。ここでは、設備用エアコンを選ぶ際の主なポイントについて解説します。

設置場所に適したタイプを選ぶ

設備用エアコンを導入する際は、設置場所の特性に合ったタイプを選ぶことが大切です。例えば、天井が高く広い工場や倉庫では、大風量かつ高出力の天吊型や床置型が効果的です。一方、スペースが限られる小部屋やバックヤードなどでは、壁掛型や天井埋込型のようなコンパクトなタイプが適しています。

あわせて、作業動線やレイアウトに配慮し、空調機器が通路や設備の邪魔にならない設置位置を検討することも重要です。例えば、床に設置すると動線を妨げるような場所では、床置型よりも天井吊り下げ型のほうが適している場合があります。

空間の広さに応じた馬力数を選ぶ

設備用エアコンを導入する際は、設置する空間の広さに応じた適切な馬力数(能力)を選ぶことも重要です。能力が不足していると、十分な冷暖房効果が得られず、エアコン本体に過度な負荷がかかり、故障につながる恐れがあります。

一方で、必要以上に高出力の機器を選ぶと、初期導入費用や電気代が余計にかかるため、コスト面でも非効率です。空間に合ったスペックで選定することが、性能と経済性の両立につながります。

馬力の必要量は、単純な床面積だけでなく、天井の高さや断熱性、外気温の影響、発熱機器の有無といった条件によっても変動します。目安としては、10〜15坪(約30〜50㎡)あたりで2馬力程度が基準とされていますが、倉庫や工場のように天井が高く、空間が広い場合は、それ以上の馬力が必要になるケースもあります。

外気・粉塵・油煙などの環境条件に対応した機種を選ぶ

設備用エアコンを選ぶ際は、設置環境の条件に適した機種を選定することも大切です。例えば、工場や厨房では、外気の流入や粉塵・油煙の発生が避けられず、空調機器にとって負荷の大きい環境となります。こうした現場では、空気中の汚れが機器内部に入り込み、冷却効率の低下やフィルターの目詰まり、故障の原因になることもあります。

そのため、防塵・防油設計が施された高耐久な機種や、高性能フィルターを搭載したモデルの導入が適しています。また、換気機能や外気処理機能を備えたタイプを選べば、室内の空気を清潔に保ちつつ、新鮮な外気を取り入れることが可能です。

設置可能なスペースに合う形状を選ぶ

設備用エアコンを導入する際は、設置スペースに適した形状の機種を選ぶことも重要です。工場や倉庫、医療施設などでは、天井の高さや梁の位置、壁面の構造によって設置の自由度が異なり、適切な形状を選ばなければ施工が難しくなる場合もあります。

例えば、天井裏に十分なスペースがある現場では天井埋込型が適しており、天井が高く壁際に余裕がある場合は天吊型が選ばれる傾向があります。設置スペースが限られる場合には、床置き型やラックマウント型といった省スペース型の機種も選択肢に入ります。

さらに、メンテナンスのしやすさも考慮すべきポイントです。フィルターの清掃や点検、修理作業をスムーズに行える構造かどうかを確認しておくと、導入後の管理負担を軽減できます。

電源仕様に対応したモデルを選ぶ

設備用エアコンを導入する際は、設置場所の電源仕様に合ったモデルを選定することも大切です。エアコンには、単相100V・単相200V・三相200Vといった複数の電源タイプがあり、施設側の配電設備によって選べる機種が異なります。

特に工場や倉庫などでは、出力の大きい機器が多く使用されるため、三相200Vが主流です。高出力かつ効率的な運転が可能な空調設備を求める現場では、三相対応モデルが適しています。

一方、オフィスや小規模店舗では単相200Vを採用しているケースもあり、導入予定の設備用エアコンが対応しているかどうか、あらかじめ確認しておく必要があります。誤った電源仕様の機器を選んでしまうと、追加の電気工事が発生するだけでなく、設置そのものができない恐れもあります。

購入・リースなど導入コストで選ぶ

設備用エアコンを選定する際は、導入コストも重要な判断材料となります。初期費用を抑えたい場合は、リースの活用がおすすめです。契約期間中はメンテナンスや修理費用が含まれているプランもあり、予算計画が立てやすくなります。一方、長期的な運用を見込む場合は、購入によってランニングコストを抑える選択も検討に値します。

導入形態によって初期負担や管理方法が大きく異なるため、自社の設備投資計画やキャッシュフローに応じて最適な方式を選ぶことが大切です。

設備用エアコンの設置・導入時の流れ

設備用エアコンの導入には、現場ごとの環境確認や最適な機種の選定、工事進行があります。ここでは、設備用エアコンを導入する際の一般的な流れについて紹介します。

ステップ1 お問い合わせと設置希望のヒアリング

設備用エアコンの導入を検討する際、最初のステップとなるのが業者への問い合わせと、設置に関する要望のヒアリングです。この段階では、施設の用途や広さ、使用環境(温湿度、粉塵、外気の影響など)について、できるだけ具体的な情報を伝えることが求められます。

設備用エアコンは、設置環境に応じた設計や仕様の選定が必要となるため、ヒアリング内容の精度が、その後の機器提案や見積もりの正確さを左右します。

あわせて、冷暖房が必要な時間帯や既存設備の有無、予算の目安、導入希望時期なども共有しておくと、次の工程へスムーズに進められます。

ステップ2 現地調査と設置環境の確認

お問い合わせのあとは、専門スタッフによる現地調査が実施されます。これは、設備用エアコンの機種や設置方法を適切に判断するうえで欠かせない重要な工程です。

調査では、空間の広さや天井の高さ、熱源の有無、湿度や粉塵の状態など、空調に影響する要素を細かく確認します。また、室外機の設置スペースや電源容量、既存設備との干渉の有無などもチェックされます。

さらに、配管ルートや搬入経路の確保が可能かどうかも含め、現場全体を総合的に見て調査が進められます。こうした情報をもとに、機種選定や見積もりの精度が高まり、設置後のトラブルリスクも抑えられます。

あわせて、社内の設備図面や使用状況についても、必要に応じて事前に共有しておくとスムーズです。

ステップ3 機器選定と見積もりの提示

現地調査が完了したあとは、確認された環境条件や施設の用途をもとに、最適な設備用エアコンの機種が選定されます。設置スペースの制約や必要な冷暖房能力、粉塵や湿気といった周辺環境、さらに運転時間やエネルギー効率など、運用面の要件も含めて総合的に検討されます。

選定が完了すると、候補となる機器と工事内容を反映した詳細な見積もりが提示されます。見積書には、機器本体の価格に加え、設置工事費や配管・電源工事などの関連費用、必要に応じたオプション機能の有無などが記載されるのが一般的です。

ステップ4 契約手続きと工事日程の調整

見積もり内容や提案された機種に納得できたら、正式な契約手続きに進みます。契約書には、導入予定の設備用エアコンの仕様、設置工事の範囲、金額、支払い条件、保証内容などが明記されます。法人間での契約となるため、内容を十分に確認し、必要に応じて社内での稟議や決裁手続きを行うことが重要です。

契約を締結したあとは、工事日程の調整に入ります。施設の稼働状況や繁忙期を考慮し、業務に支障が出にくい時期を選びましょう。特に工場や医療機関のように、稼働を止めにくい施設では、夜間や休日での施工が求められる場合もあります。

スムーズな導入を実現するには、施工業者との密な連携が欠かせません。契約から工事実施までのスケジュールを事前に把握し、社内関係者と共有しておくことで、トラブルの予防にもつながります。

ステップ5 取り付け工事と試運転・引き渡し

契約と工事日程の調整が完了したあとは、設備用エアコンの取り付け工事に進みます。設置場所の条件を踏まえながら、本体や配管、電源工事などを丁寧に実施し、設計どおりの空調性能が発揮されるよう最終調整を行います。工事の所要時間は、一般的には数時間から1日程度ですが、大型施設や特殊な設置環境では数日に及ぶこともあります。

工事が完了したら、試運転を実施します。冷暖房が正常に作動するか、温度や風量が設定どおりに出力されているか、異音や不具合がないかを1つずつ確認します。必要に応じて微調整を行い、すべての項目で問題がなければ引き渡しとなります。

引き渡し時には、操作方法や使用時の注意点、定期的なメンテナンスのポイントなどについて業者から説明を受けられます。

設備用エアコンは現場環境に応じた最適選定がカギ

設備用エアコンは、単に冷暖房を行うだけでなく、工場や病院、倉庫などの特殊な環境においても安定した空調性能を発揮するよう設計された重要な設備です。高温・多湿、粉塵や油煙、清浄度が求められる空間など、設置場所ごとに異なる課題に対応するためには、機種や仕様の的確な選定が欠かせません。加えて、導入方法や費用面においても、リースや購入の選択肢を比較しながら、自社の運用方針に合った導入計画を立てることが重要です。

空調環境の最適化は、従業員の安全や製品の品質、業務効率の向上にも直結します。設備用エアコンの導入を検討する際は、本記事で紹介した選定ポイントや導入の流れを参考に、現場環境に合った最適な1台を選びましょう。

Pマーク画像
当社は、一般財団法人日本情報経済社会推進協会(JIPDEC)よりプライバシーマーク付与認定を受けています。 プライバシーマークは、日本工業規格「JIS Q 15001:2017個人情報保護マネジメントシステム要求事項」に適合して 個人情報を適切に取り扱っている事業者に付与されるものです。