「室内をすっきり見せたい」「インテリアの雰囲気を壊さないエアコンが欲しい」そんな方に注目されているのが、天井や壁に本体を埋め込む“埋め込み式エアコン”です。建物の美観を損なわずに、快適な空調を実現できるタイプのエアコンですが、壁掛け式との違いや設置条件、費用面の不安から導入を迷っている方も多いのではないでしょうか。
そこで今回は、埋め込み式エアコンの特徴や種類、メリット・デメリット、設置前に知っておくべきポイントまで詳しく解説します。

目次
埋め込み式エアコンとは?
埋め込み式エアコンとは、天井や壁の内部に本体を設置し、吹き出し口だけが見える構造のエアコンです。室内に機器の存在感が出にくく、空間の美観を損ねにくいため、壁掛け型と比べてデザイン性に優れています。
特に、空間をすっきりと見せたい店舗や、インテリアにこだわりのある方から選ばれる傾向があります。風の吹き出し方向や設置位置の調整がしやすく、快適な空調環境をつくりやすい点も魅力です。
一方で、新規の設置には天井裏や壁の内部にある程度のスペースが必要であり、建物の構造によっては施工が制限されることもあります。導入には専門業者による工事が必要となるため、新築やリフォームのタイミングで検討するのが一般的です。
埋め込み式と壁掛け式の違い
埋め込み式エアコンと壁掛け式エアコンは、設置方法や外観、運用のしやすさなどに違いがあり、企業の空調設備選びでは検討すべき重要な要素となります。
埋め込み式は、本体を天井や壁の内部に設置することで機器の存在感を抑え、空間をすっきりと演出できるのが特長です。来客対応が多いエントランスや会議室、店舗などでは、内装デザインとの調和を図りやすく、印象を整える空間づくりに役立ちます。
一方、壁掛け式は導入コストを抑えながら比較的短期間で設置できるため、小規模オフィスや倉庫、バックヤードなどで幅広く利用されています。ただし、室内機が目立つ位置に設置されるため、来訪者の目に留まりやすく、空間の統一感を損ねることもあります。
埋め込み式エアコンの主な種類
埋め込み式エアコンには、空間の広さやレイアウトの好みに応じて選べる多彩な種類があります。ここでは、代表的な埋め込み式エアコンの種類とその特徴を詳しく解説します。
天井カセット型(1方向吹き出し)
天井カセット型の1方向吹き出しタイプは、本体を天井内に収めることで、空間の印象を損なわずに一方向へ効率的な送風が可能なモデルです。主に壁や窓に面した位置に設置され、冷気や暖気を作業エリアの奥まで届けるよう設計されています。
廊下やフロアの端、会議室の一角など、直線的な気流が求められる場所に適しており、ゾーンごとの温度調整がしやすい点も企業利用におけるメリットです。天井と一体化したすっきりとしたデザインのため、来客対応エリアや受付などでも違和感なく設置でき、空間全体の印象を損ないません。
ただし、吹き出しが一方向に限定される構造のため、設置場所やレイアウトによっては空調効果に偏りが生じることもあります。
天井カセット型(2方向吹き出し)
天井カセット型(2方向吹き出し)は、左右両側に吹き出し口を備えた埋め込み式エアコンです。廊下や奥行きのあるオフィス、会議室、店舗の通路など、直線的な気流が求められる空間に適しています。1方向タイプと比べて風の届く範囲が広く、室内の温度ムラを抑えながら快適な環境を保ちやすい点が特長です。
本体が天井内に収まる構造のため、設置後も空間に圧迫感が生じにくく、来客スペースや受付などでも美観を損なわずに使用できます。内装に配慮した空間づくりを重視するオフィスや商業施設でも導入しやすいタイプです。
天井カセット型(4方向吹き出し)
天井カセット型(4方向吹き出し)は、本体を天井内に埋め込み、四方向に均等な気流を送るタイプの埋め込み式エアコンです。部屋の中央に設置することで、空間全体に冷暖房が行き渡りやすく、温度ムラを抑えるのに適しています。
気流が全方向に広がるため、室内のどこにいても快適さを感じやすく、空調によるストレスの軽減にもつながります。また、天井と一体化する設置構造により、室内に圧迫感を与えにくく、デザイン性や視認性を損なわない点も特長です。
オフィスの美観やブランドイメージに配慮したい場合にも選ばれており、見た目と快適性の両立を図りたい空間に向いています。
なお、設置には天井裏に十分なスペースが必要で、施工は専門業者による工事が前提です。
天井ビルトイン型(ダクト式)
天井ビルトイン型(ダクト式)は、天井裏に本体を設置し、ダクトを通じて複数の吹き出し口から空気を送るタイプの埋め込み式エアコンです。各部屋や部屋の複数箇所に風を分散できるため、室内全体をムラなく快適な温度に保ちやすいのが特長です。吹き出し口の位置や数を柔軟に調整できるため、設計の自由度が高く、空間の美観を損なうことなく快適な空調環境を実現できます。
一方で、設置工事は他のタイプに比べて大がかりになりやすく、天井裏に十分なスペースと配管経路を確保する必要があります。
壁埋め込み型
壁埋め込み型エアコンは、本体を壁の内部に収め、正面の吹き出し口のみが見える構造の業務用空調機です。機器の存在感を抑えながら空調性能を発揮できるため、空間の美観やブランドイメージを重視するオフィスや店舗に適しています。
特に、天井裏に十分なスペースを確保できない建物や、壁面を有効に使いたい応接室・商談スペースなどでは導入しやすい仕様です。風向きは一定方向に保たれ、直線的な空気の流れを活かせるため、長方形の会議室や通路沿いの空間にも対応できます。
ただし、設置には壁の構造確認に加えて、配管や配線のルート確保が必要です。
埋め込み式エアコンのメリット・デメリット
埋め込み式エアコンは、空間をすっきり見せたい方やインテリアにこだわりたい方に人気の空調設備です。しかし、見た目や快適性に優れる一方で、設置条件や費用、メンテナンスの面では注意点もあります。ここでは、埋め込み式エアコンを導入するうえで知っておきたい主なメリットとデメリットについて解説します。
メリット
埋め込み式エアコンは、天井や壁内に本体を収める構造のため、機器の存在感を抑えつつ、すっきりとした空間を演出できる点が大きな特長です。空調設備が目立たないため、オフィスや商業施設、接客スペースなどでインテリアの統一感やブランドイメージを保ちやすくなります。
また、吹き出し口の向きや設置箇所を最適化することで、空気が空間全体に均等に行き渡りやすく、快適な空調環境の維持に貢献します。複数方向に送風可能なタイプを選べば、広い執務エリアやフロア全体でも温度ムラを抑えやすくなります。
デメリット
埋め込み式エアコンは、空間の美観を損なわずに設置できる反面、導入にはいくつかの注意点があります。まず、天井裏や壁内部に一定のスペースを確保する必要があるため、建物の構造によっては設置が難しくなる場合があります。特に既存のオフィスビルや店舗では、天井高や配管ルートの制約によって、施工に制限が生じることもあります。
また、本体が天井内に隠れる構造であるため、フィルター清掃や不具合時の点検には手間がかかり、専門業者による定期的なメンテナンスが必要になるケースも多くなります。さらに、いったん設置した後は本体位置の変更が容易ではないため、レイアウト変更や用途変更の際に柔軟性を欠く点もデメリットといえるでしょう。
埋め込み式エアコンを設置する前に知っておきたい設置条件
埋め込み式エアコンは、すっきりとした見た目と快適な空調を両立できる魅力的な設備ですが、設置にはいくつかの条件があります。ここでは、設置を検討する前に押さえておきたいポイントについて解説します。
天井裏に本体を収める十分なスペースが必要
埋め込み式エアコンを設置するには、天井裏に本体を収められるだけの空間が必要です。特に天井カセット型は、室内機を天井内に収納する構造のため、高さ方向に20〜30cm以上のスペースが求められます。「直天井」と呼ばれる構造では十分な余裕がなく、設置が難しくなるケースもあるため、事前の構造確認が欠かせません。
一方、天井裏にゆとりを持たせた「二重天井」の物件であれば、比較的スムーズに設置でき、配管やダクト類の通路も確保しやすくなります。
天井の構造によっては下地補強工事が必要
埋め込み式エアコンを設置する際は、本体をしっかりと固定できるよう、天井の構造に応じた下地補強が必要になることがあります。特に「直天井」と呼ばれる構造では、天井裏に十分なスペースがなく、天井材だけでは機器の重量に耐えられない恐れがあります。
一方で、「二重天井」の建物であれば、天井裏にゆとりがあるため、本体の設置や配管ルートの確保が比較的スムーズです。ただし、どちらの構造であっても、天井材や梁に十分な強度がない場合は、安全に運用するための補強工事が必要になるケースもあります。
配管や配線を通すルートを確保しておく必要がある
埋め込み式エアコンをオフィスや店舗に導入する際は、室内機と室外機を接続するための配管・配線ルートの確保が必要です。冷媒管やドレン管、電源ケーブルなどを天井裏や壁内部に通す必要があるため、梁や柱、既存の配管・ダクトなど構造的な障害物の有無を事前に確認しておくことが重要となります。
特に、建物の構造によっては天井裏に十分なスペースが確保できず、設置可能な位置が制限される場合があります。また、配管ルートが長くなりすぎると冷暖房効率の低下や結露のリスクが生じるため、設置場所の選定と配管経路の設計には注意が必要です。
室外機を設置できる場所と距離を事前に確認する
埋め込み式エアコンをオフィスや店舗に導入する際は、室外機の設置場所と室内機までの距離をあらかじめ確認しておく必要もあります。室外機は、外壁や屋上、サービスバルコニーなどに設置されるのが一般的ですが、建物の構造や管理規約によって制限されるケースもあります。
また、配管の距離が長くなると冷暖房効率が落ち、メーカーが定めた最大配管長を超えると、設置自体ができない可能性も出てきます。さらに、天井裏の梁や既存配管との干渉によって、配管ルートの確保が難しくなることもあるため注意が必要です。
導入前には必ず現地調査を行い、技術的な可否を見極めることが重要です。
照明・点検口と干渉しない配置を検討する
埋め込み式エアコンを導入する際は、天井の照明器具や点検口と干渉しないよう、慎重なレイアウト計画も重要です。吹き出し口と照明が近すぎると風の流れが乱れやすく、冷暖房の効率が落ちる原因になります。
また、点検口のすぐそばに本体を設置すると、将来的なメンテナンス時に作業スペースが確保できず、不便を招く恐れもあります。特に天井の構造に余裕がない物件では、注意が必要です。
そのため、照明や点検口、梁、ダクトなどの既存設備との位置関係は、あらかじめ図面で確認しておくのがよいでしょう。
埋め込み式エアコンの設置費用とランニングコスト
埋め込み式エアコンは、壁掛け型と比べて初期費用やメンテナンス費用が高くなる傾向がありますが、その分、快適性やインテリア性の高さも魅力です。ここでは、設置にかかるコストや月々の電気代、メンテナンスに必要な費用について詳しく解説します。
埋め込み式エアコンの設置費用は50万~100万円が相場
埋め込み式エアコンの設置にかかる費用は、一般的に50万〜100万円程度が目安です。この金額には、本体価格に加え、天井や壁への埋め込み工事、冷媒配管や電源配線の施工、室外機の設置作業などが含まれます。
壁掛け型に比べて施工の手間が多いため、工事費が割高になることもあります。特に、天井裏のスペースが限られている建物では、設置位置や配管ルートの確保に工夫が必要となり、追加費用が発生するケースも見受けられます。
さらに、建物の構造によっては下地の補強工事が必要になることもあるため、事前の現地調査と詳細な見積もり確認が欠かせません。
月々の電気代は約6,000〜10,000円が目安
埋め込み式エアコンをオフィスや店舗に導入した場合、1台あたりの月々の電気代はおおよそ6,000〜10,000円が目安です。実際の消費電力量は、機器の性能や稼働時間、設置環境(天井高や断熱性など)によって左右されます。
例えば、25畳程度の空間に対応したモデルでは、年間消費電力が約5,400kWhとなり、年間の電気代はおよそ8万円。月平均に換算すると、約6,500円前後です。
ただし、これは冷暖房を長時間稼働させた場合の上限に近い数値です。実際には、省エネ運転の活用や稼働時間の調整により、コストを抑えることも可能です。断熱性能の高い建物や人感センサー付きの機種を選べば、月々の電気代を5,000円台に抑えることも期待できます。
フィルター掃除や点検などのメンテナンス費用も必要
埋め込み式エアコンをオフィスや店舗で安定的に運用するためには、定期的なメンテナンスが不可欠です。特にフィルターの清掃は2〜3か月に1回を目安に実施する必要があり、汚れが蓄積すると冷暖房効率が低下するほか、室内環境の悪化やカビの発生リスクも高まります。
また、3年に1回程度は専門業者による内部洗浄や点検が推奨されており、その費用は1台あたり3〜5万円が相場です。埋め込み式は壁掛け型に比べて天井高での作業や部材の取り外しが必要となるため、作業工数や費用がかさみやすい点にも注意が必要です。
埋め込み式エアコンの掃除・メンテナンス方法
埋め込み式エアコンはデザイン性に優れる一方で、定期的な掃除やメンテナンスを怠ると冷暖房効率の低下やトラブルの原因になります。ここでは、フィルター掃除やプロによる洗浄など、具体的なメンテナンス方法を紹介します。
フィルターは2〜3か月に1回の取り外し洗浄が基本
業務用の埋め込み式エアコンを効率的かつ衛生的に運用するには、フィルターの定期清掃が不可欠です。フィルターにはホコリや花粉、油分などが蓄積しやすく、放置すると送風効率の低下や冷暖房能力の劣化、カビや雑菌の発生といった衛生リスクを招きます。目安としては2〜3か月に1回の頻度で、フィルターを取り外して清掃を行うことが推奨されます。
特に飲食店や人の出入りが多いオフィスでは、空気中の汚れが多く、汚染スピードも早いため注意が必要です。高所作業が伴う場合は、安全対策を徹底したうえで作業するか、専門業者による定期点検・クリーニングを導入するのも効果的です。
内部のカビやホコリは年1回のプロ洗浄が効果的
埋め込み式エアコンは、本体が天井や壁の内部に設置されているため、外から見えない箇所にホコリやカビが溜まりやすい構造です。特に熱交換器や送風ファンには汚れが付着しやすく、放置すると冷暖房の効きが悪くなるほか、においやアレルギーの原因となることもあります。
こうしたトラブルを防ぐには、3年に1回を目安に専門業者による内部洗浄を実施するのがおすすめです。高圧洗浄機や専用の薬剤を使ったプロのクリーニングであれば、目に見えない奥の汚れまでしっかり除去できます。
定期的な洗浄を取り入れることで、空調機器の性能を安定させながら衛生的な室内環境を保ちやすくなります。
においや水漏れ対策には定期的なドレンパンの清掃が有効
埋め込み式エアコンをオフィスや店舗で長く衛生的に運用するには、ドレンパンの定期清掃も重要です。ドレンパンは、冷房時に発生する結露水を受け止める受け皿であり、ここにホコリやカビが蓄積すると、悪臭や水漏れといったトラブルにつながります。
特に稼働時間が長くなる夏場は、湿度の影響でカビが繁殖しやすく、空調から不快なにおいが発生するケースも少なくありません。エアコン内部のため見落とされがちですが、3年に一度は専門業者による清掃・点検を実施するのが理想です。
衛生管理の行き届いた空調環境は、従業員の快適性や来客対応の印象にも大きく影響します。
見た目と快適性を両立する埋め込み式エアコンを検討しよう
埋め込み式エアコンは、空間に圧迫感を与えず、スタイリッシュな内装と快適な空調を両立できる業務用設備として、オフィスや店舗に適したエアコンです。天井や壁に本体を収めることで、来客対応エリアや商談スペースでも美観を損なうことなく、空間の印象を向上させる効果が期待できます。
一方で、設置には建物の構造確認や配管ルートの確保といった専門的な工事が必要となり、初期費用やメンテナンス体制についても事前の検討が欠かせません。省エネ性や運用コストも含めて、長期的な視点での導入計画が重要です。
快適性とデザイン性を兼ね備えた空調環境を実現するためにも、自社の利用目的や施設構造に合った機種を選び、信頼できる専門業者と連携しながら導入を進めていきましょう。