業務用エアコンの選び方を徹底解説|業種・設置環境別に最適な機種がわかる

業務用エアコンの導入や入れ替えを検討する際、「どの機種を選べばよいのか」「設置にあたって何を確認すべきか」といった悩みを抱える方は少なくありません。形状や馬力、対応できる使用環境は機種によってさまざまで、自社に合わない選定をしてしまうと、快適性の低下や無駄な電力消費につながる可能性もあります。

そこで今回は、設置環境や業種に応じた業務用エアコンの選び方を、基礎から実践までわかりやすく解説しています。ぜひ参考にしてみてください。

業務用エアコン選びで押さえるべき基準

業務用エアコンの導入では、単に「冷えればよい」「有名メーカーだから安心」といった判断に頼るだけでは十分とはいえません。設置環境や用途に合わない機種を選んでしまうと、空調効率が低下し、余計なコスト負担が発生するおそれがあります。長期的に快適かつ経済的な運用を実現するには、以下の3つの視点から総合的に検討することが重要です。

  • 空間に適した形状を選ぶ
  • 使用面積や熱源の有無を踏まえた馬力(能力)の選定
  • オフィスや店舗、医療・介護施設など、それぞれの業種・環境に適した機能を備えた機種を選ぶ

これらの観点をバランス良く考慮することで、導入後も安心して使用できる空調設備を実現できるでしょう。選定時には、価格やメーカーの知名度だけでなく、現場の条件や運用目的を見据えた機種選びが求められます。

選び方① 業務用エアコンの形状で選ぶ

業務用エアコンは設置環境によって適した形状が異なるため、形状選びは重要な判断ポイントの1つです。ここでは、業務用エアコンの形状選びのポイントについて解説します。

天井カセット形

天井カセット形は、天井に埋め込んで設置する業務用エアコンです。室内に機器が露出せず、空間をすっきりと見せられる点が特長です。吹出口が四方向に備わり、室内全体に均等な気流を届けられる構造のため、オフィスや店舗、会議室などで多く用いられています。

空調設備を内装になじませたい場合にも適しており、空間のデザイン性を損ねません。ただし、設置には天井裏の十分なスペースが必要となり、他の形状と比較して工事費が高くなる場合もあります。空間の美観を保ちつつ快適な空調環境を整えたい現場に向いています。

天井吊形

天井吊形は、天井に直接吊り下げて設置する業務用エアコンです。天井裏にスペースが確保できない場所でも対応できるため、梁や配管が多い施設、改装を伴う物件などに向いています。吹出口が前面にある構造で、広い空間へ風を効率的に送れる点が特長です。

天井を開口せずに設置できるため、施工の手間を抑えやすく、内装への影響も少なくなります。飲食店、店舗、学校、会議室などで導入されることが多く、設置の柔軟性とメンテナンス性の両立が可能です。外観の調和を意識する場合は、機器の見た目が空間にどう映るかも考慮して配置を検討する必要があります。

壁掛形

壁掛形は、室内の壁面上部に設置する業務用エアコンです。設置工事が比較的容易で導入コストを抑えやすいため、小規模なオフィスや店舗、個室の多い施設などで多く使用されています。天井裏や床にスペースを確保する必要がなく、レイアウトの自由度も高くなります。

既存設備への干渉が少ない点も特徴の1つです。機器本体が露出する構造のため、フィルター清掃や点検が行いやすく、日常的なメンテナンスも負担になりません。ただし、気流の広がりは他の形状に比べて限定される傾向があるため、広い空間では台数や配置に工夫が求められます。

床置形

床置形は、床に据え付けて使用する業務用エアコンです。天井や壁に設置スペースを確保できない場所でも導入でき、柔軟なレイアウトに対応しやすい点が特長です。吹出口が低い位置にあるため、足元から効率良く気流を循環させることができ、天井が高い空間や広い室内に適しています。

フィルター清掃や点検がしやすく、メンテナンス性にも優れているのが特徴です。工場・倉庫・病院・福祉施設・飲食店のバックヤードなど、人の移動が多い環境で活用されています。床に設置するため、通路や設備との干渉には注意が必要ですが、温度ムラを抑え、安定した空調効果を得られる実用性の高い機種です。

ビルトイン形・ダクト形

ビルトイン形やダクト形は、天井裏に本体を設置し、風をダクトで各スペースへ送る業務用エアコンです。機器本体が露出しないため、内装の美観を損ねず、空間デザインを重視するオフィスやクリニック、ホテルなどで導入されています。

1台で複数の吹出口に対応できる構造により、広いエリアや複数の部屋も効率良く空調可能です。気流の配分を調整しやすく、温度ムラが生じやすい空間にも柔軟に対応できます。ただし、天井裏スペースの確保やダクト工事が必要になり、設計や施工の自由度には制限があります。静音性と統一感のある空間づくりを目指す際に適した形式です。

選び方② 業務用エアコンの馬力(能力)で選ぶ

業務用エアコンの快適性や省エネ性を高めるには、空間に合った適切な「馬力(能力)」を選ぶことが不可欠です。ここでは、業務用エアコンの馬力選びの考え方について解説します。

適切な馬力は「面積 × 熱負荷」で計算できる

適切な馬力を選ぶ際は、設置面積だけでなく熱負荷も考慮する必要があります。熱負荷とは、外気温や日射、人の出入り、照明や機器から生じる熱など、空間内にかかる冷暖房の総量のことです。

同じ広さであっても、南向きのガラス張りオフィスと倉庫では必要な能力に差が出ます。一般的には「面積 × 熱負荷係数」で必要な能力(kW)を算出し、その数値から馬力を割り出す方法が用いられます。冷暖房効率や運用コストに関わるため、事前に専門業者へ熱負荷の計算を依頼しておくと安心です。

馬力の目安は「1馬力=約2.8kW」

業務用エアコンの能力を検討する際は、「馬力(HP)」という単位を基準に考えます。1馬力はおおよそ2.8kWの冷暖房能力に相当し、この数値をもとに必要な馬力を算出します。たとえば、熱負荷が8.4kWであれば、目安として3馬力の機種が必要です。

ただし、これはあくまで理論的な数値であり、実際には空間の用途や構造、天井の高さ、設置機器からの発熱なども加味しなければなりません。同じ馬力でも機種によって能力の出力範囲が異なるため、カタログスペックの確認も欠かせません。

エアコンの馬力は「設置環境と業種」で選ぶ

業務用エアコンの馬力は、面積や人数だけでなく、設置環境や業種の特性を踏まえて選ぶ必要があります。たとえば、火を使う飲食店や照明・機器の稼働が多い美容室では、一般的なオフィスよりも熱負荷が高く、同じ広さでも大きな馬力が求められます。

出入りが多い店舗や天井の高い工場も、冷暖房効率が低下しやすいため、余裕のある能力が必要です。一方、人の出入りが少ない事務所や診療室では、馬力を抑えることで省エネ効果を高めることができます。使用環境に適さない能力設定は、空調の効き不足や無駄な電力消費の原因となるため、目的に応じた適切な選定が欠かせません。

選び方③ 使用環境・業種別に適した業務用エアコンを選ぶ

業務用エアコンは、業種や施設の特性によって求められる機能や性能が大きく異なります。ここでは、使用環境や業種別に適したエアコン選びのポイントについて解説します。

オフィスには省エネ性能と静音性を備えたエアコンを選ぶ

オフィス環境では、作業効率と快適性を両立させるため、省エネ性能と静音性に優れた業務用エアコンの導入が求められます。長時間稼働することが多いため、消費電力を抑えた高効率モデルを選ぶことで、運用コストの削減が期待できます。

空調音が大きいと集中を妨げる要因となるため、運転音の静かな機種を採用することも重要です。エリアによって使用頻度や在席人数が異なる場合には、個別制御機能を備えた機種を導入することで、無駄な消費を避けつつ快適な空間が保たれます。働きやすい環境を整えるには、機能と経済性の両面に配慮した選定が必要です。

飲食店には熱負荷に強く風向調整ができる機種を選ぶ

飲食店では、厨房機器や照明から発生する熱の影響で、室内の熱負荷が高くなる傾向があります。そのため、冷房能力に余裕のある高馬力の業務用エアコンが必要です。客席・厨房・出入口付近など、場所ごとに温度差が生じやすいため、風向や風量を細かく調整できる機種を選ぶことが快適性の確保につながります。

風が直接当たると不快に感じる場面もあるため、風向制御機能やロング気流タイプの活用も効果的です。空間に油煙やにおいがこもらないよう、換気機能との組み合わせにも配慮が必要です。

理美容室には風当たりを抑えられるエアコンを選ぶ

理美容室では、施術中の顧客に風が直接当たると、不快感や体調不良の原因になるおそれがあります。そのため、気流を調整できる業務用エアコンの導入がおすすめです。風向や風量を自動で切り替えられる機能を備えた機種であれば、空調環境を快適に保ちやすくなります。

ドライヤーや照明による熱の影響も大きいため、馬力に余裕を持たせた機種が適しています。空調音が大きいとリラックスを妨げる要因にもなりかねないため、静音性にも配慮が必要です。快適な空間づくりは、顧客の満足度を高めるだけでなく、スタッフの働きやすさにも直結します。

病院・介護施設には温度・湿度管理ができる静音型を選ぶ

病院や介護施設では、体温調整が難しい高齢者や療養中の患者が多く、空調設備には精度の高い温度・湿度管理機能が求められます。冷えや乾燥を防ぐためには、除湿・加湿を自動で制御できる機種がおすすめです。

入院室や共有スペースでは静音性も重要で、運転音が大きいと安静を妨げる原因になります。低騒音設計のエアコンを導入すれば、より快適な環境が維持できます。空気中のウイルスや菌の拡散を抑えるには、空気清浄機能や気流制御機能を備えたタイプが有効です。

工場や作業場には換気性と耐久性に優れた機種を選ぶ

工場や作業場では、作業によって発生する熱や粉じん、湿気の影響で空調環境が不安定になることがあります。そのため、業務用エアコンには高い冷暖房能力に加え、換気性能や耐久性が必要です。

高温多湿な現場では、外気を取り入れて空気を入れ替える全熱交換機能や、長時間の連続運転に耐える設計が適しています。鉄粉や油煙が発生する環境では、防塵・防油対策を施した機種を選ぶことで故障のリスクを抑えることが可能です。高所や広い空間では、風量や吹き出し距離の調整機能も重要になります。

業務用エアコンを設置する前に確認すべきこと

業務用エアコンの設置は、機種選びと同じくらい「事前準備」が重要です。ここでは、業務用エアコンを設置する前に確認しておきたいポイントについて解説します。

設置スペースの広さ・天井高・空気の流れを確認する

業務用エアコンを導入する際は、設置スペースや天井の高さ、空気の流れといった物理的条件を事前に確認することが欠かせません。たとえば、天井裏に十分なスペースが確保できない場合は、天井カセット形ではなく天井吊形や壁掛形が適する可能性があります。

天井が高い空間では、冷暖房の効率を保つために、吹出口の位置や気流の届く範囲を考慮した設計が必要です。空気の流れを妨げる仕切りや柱、什器の配置にも注意し、温度ムラや風の偏りが生じないよう配慮します。これらの条件を正確に把握しておくことで、快適かつ効率的な空調を実現でき、無駄なエネルギーの消費も抑えられます。

対応可能な電源容量と配線経路を確認する

業務用エアコンを導入する際は、設置場所の電源容量と配線経路の確認が欠かせません。多くの機種は単相200Vや三相200Vなどの高電圧に対応しているため、既存設備が適合しない場合は電気工事が必要になることがあります。

配線経路についても、ブレーカーから本体までスムーズに配線できるルートを把握しておかないと、工事費用が増えたり工期が延びるおそれがあるため注意が必要です。さらに、同じ電源から複数の機器を接続している場合には、過負荷を避けるための見直しも求められます。こうした条件を確認せずに機種を選ぶと、想定外の追加費用が発生するリスクがあります。安全かつ円滑に設置を進めるためにも、事前に電源状況を調査しておきましょう。

既存設備や内装との干渉リスクを確認する

業務用エアコンを設置する際は、既存の設備や内装と干渉しないか事前に確認しておくことが重要です。たとえば、照明や梁、ダクト、配管などと位置が重なると、施工が難航するだけでなく、後のメンテナンスにも支障をきたす可能性があります。

内装のデザイン性が重視される店舗や施設では、機器の露出が景観を損ねる場合もあるため、配置や機種の選定に慎重さが必要です。特に天井埋込型やビルトインタイプを導入する際は、天井裏の構造や寸法を正確に把握し、干渉リスクを抑える必要があります。トラブルや無駄な工事を防ぐためにも、事前の現場確認を徹底しましょう。

施工スケジュールと業務への影響を事前に確認する

エアコンの設置工事は、場所や機種によっては数日かかることがあります。その間、室内の一部が使用できなかったり、作業音や人の出入りが発生したりと、業務への影響は避けられません。特に営業時間中の工事は、業務の妨げにならないようスケジュール調整が欠かせません。

工事業者と事前に打ち合わせを行い、作業時間や工事工程を把握しておくことで、トラブルを未然に防ぐことが可能です。仮設空調や養生などの対応策についても、事前に確認しておくと安心です。

活用できる補助金・助成制度を把握しておく

業務用エアコンの導入や更新には、まとまった初期費用がかかるため、補助金や助成制度を活用することでコストの軽減が図れます。国や自治体では、省エネ機器の導入支援として「エネルギー使用合理化事業」や「中小企業向け設備投資補助金」などを実施している場合があります。

対象機種や申請条件、提出書類、受付期間は制度ごとに異なるため、導入を検討する段階での情報収集が欠かせません。工事開始後は申請できないケースもあるため、早い段階で制度の有無を確認し、必要に応じて施工業者や自治体に相談しておきましょう。

用途と設置環境に合った業務用エアコンを選ぼう

業務用エアコンを選ぶ際は、形状・馬力・機能を一律に比較するのではなく、設置環境や使用目的に応じて最適な仕様を見極めることが重要です。オフィス・飲食店・病院・工場など、それぞれの業種には異なる空調ニーズがあり、求められる能力や機能も大きく異なります。

さらに、空間の広さ・構造・熱負荷の違いも加味することで、快適性と省エネ性を両立できる空調設計が可能になります。導入後のトラブルや無駄なコストを防ぐためにも、専門業者の知見を活かしながら、自社の条件に合った機種を慎重に選定しましょう。

Pマーク画像
当社は、一般財団法人日本情報経済社会推進協会(JIPDEC)よりプライバシーマーク付与認定を受けています。 プライバシーマークは、日本工業規格「JIS Q 15001:2017個人情報保護マネジメントシステム要求事項」に適合して 個人情報を適切に取り扱っている事業者に付与されるものです。