業務用エアコンにおける「配管」は、空調システムの性能と安全性を左右する重要な要素です。冷媒の流通、排水、電気系統の連携を担うため、設計・施工の質が導入効果に直結します。
本記事では、配管の基本から材料選定、施工工程、トラブル対策、最新の省施工技術までを幅広く解説します。BtoB導入を検討する担当者に向けて、施工品質と効率を両立するための実践的な知識を提供します。

目次
配管の基本と役割──種類・機能・運用方式
業務用エアコンの配管は、冷媒の循環・結露水の排出・電源供給など多岐にわたる役割を担います。まずは基本的な配管の種類と、それぞれの構造・目的を理解することから始めましょう。
冷媒配管とは?構成と機能
冷媒配管は、エアコンシステムにおいて最も基本かつ重要な配管です。室内機と室外機を接続し、冷媒を循環させることで空気を冷やしたり温めたりします。通常、「液管」と「ガス管」の2本1対で設計され、冷媒が液体のまま流れる液管と、気化した冷媒が通るガス管に分かれています。
配管の太さや材質、断熱の質によって冷媒効率が変動します。特に配管が長くなる場合、圧力損失や冷媒のロスが発生するため、最短距離でのルート選定や、適切な管径の設定が重要です。冷媒漏れ防止のための継手技術や溶接の品質も重要な検討要素になります。
運転方式と配管方式(2管式/4管式など)
業務用空調システムでは、運転方式によって配管構成が大きく異なります。一般的なのは「2管式」で、冷房と暖房を季節に応じて切り替えるシステムです。単純な構造で導入コストも抑えられますが、同時に冷暖房を行うことはできません。
一方、「4管式」は冷水・温水をそれぞれの系統で供給できるため、同時冷暖房が可能です。ビル全体で用途の異なるエリアがある場合や、24時間365日異なる温度管理が必要な施設に最適です。ただし、配管が4本必要となるため、施工難易度やコストは高まります。
建物の用途・運用ニーズに合わせて、適切な方式と配管設計を選定することが肝要です。
ドレン配管・電気配線の役割・配慮
ドレン配管は、冷房運転時に室内機内部で発生する結露水を屋外へ排出するための配管です。ドレン管には必ず一定の勾配(1/100程度)が必要で、これが確保されていないと逆流や漏水、カビの原因になります。最近では、勾配不要なドレンポンプ内蔵型の室内機も増えていますが、標準的な設計では勾配取りが基本です。
また、電気配線も見落とせない重要要素です。業務用エアコンでは三相200Vの電源が一般的で、室内外機間の制御線や電源線が必要になります。これらの配線は専用のPF管やCD管に通し、安全性と保守性を確保します。電線の配線ルートと冷媒配管・ドレン配管との干渉を避けるため、事前の配管レイアウトが重要です。
配管材料の選定──素材別メリット・実務的視点
業務用エアコン配管には、銅管・鋼管・ステンレス・樹脂管など多様な素材が用いられます。使用環境やコスト、安全性に応じた選定が必要です。さらに、保温材や被覆材の選び方も性能や耐久性に直結します。
銅管の特徴と施工上の注意点
冷媒配管で最も広く使用されているのが銅管です。高い熱伝導率と柔軟な加工性が特徴で、フレア加工やロウ付けがしやすいため、現場対応力に優れています。また、耐圧性にも優れており、冷媒の流量や圧力変動にも対応可能です。
一方で、銅は価格が高騰しやすく、盗難リスクもあるため、工事現場では取り扱い管理が重要です。加えて、潰れやすさにも注意が必要で、曲げ加工時には専用工具の使用や、曲げ半径の確保が求められます。溶接部の品質や、継手部分からの冷媒漏れ防止処理も丁寧に行わなければなりません。
SGP鋼管・ステンレス管・樹脂管の選択基準
冷媒配管以外にも、特定の用途で使われるのがSGP鋼管やステンレス管、樹脂管です。SGP鋼管は主にドレン排水や冷温水配管に使用される耐圧配管で、丈夫さと耐久性に優れています。溶接やネジ接続が可能で、屋外などの厳しい環境にも対応できますが、重量があるため施工性はやや劣ります。
ステンレス管は耐食性に非常に優れており、特に海沿いや酸性ガスが漂う環境下でも劣化しにくいという特徴があります。ただし、材料費と加工費が高く、導入にはコストの検討が必要です。
樹脂管(架橋ポリエチレン管など)は軽量で施工性が良く、保温性にも優れています。ただし冷媒配管には使用されず、冷温水系統やドレン系統での使用に限定されます。
保温材と被覆材の重要性
冷媒配管の断熱性能を確保するために、保温材の選定は欠かせません。一般的には発泡ゴム系の保温材(例:スリット入りラバーフォームなど)が使用され、配管の太さに応じた厚みで選ばれます。断熱性能が低いと、配管からの冷媒温度損失や結露の原因となり、システム全体の効率低下につながります。
また、屋外に配管を通す場合には、耐候性の高い被覆材で外装保護を施す必要があります。直射日光・風雨・紫外線によって保温材が劣化するのを防ぐため、ラッキング(板金包み)や耐候性テープで保護するのが一般的です。
さらに、防火区画貫通部では、耐火措置として不燃保温材やケーブル貫通材との組み合わせ施工も求められることがあります。
設計・施工における実務ポイント──効率と性能を両立する方法
配管設計はエアコンの性能と施工コストに直結する重要な工程です。ルート選定や配管長の最適化、隠蔽/露出の判断、高低差への対応など、現場状況を踏まえた柔軟な設計力が求められます。
配管径・長さ・ルート選定の勘所
配管径やルートの選定は、空調効率・冷媒流量・圧力損失に大きな影響を与えます。冷媒配管が細すぎれば流量が不足し、太すぎればコストや施工性に悪影響が出ます。そのため、メーカーが公表する機器容量と配管長に基づいた適正な管径を選定することが重要です。
配管長は原則として短く・シンプルなルートが理想ですが、ビル内の構造上、配管が屈曲することも多くあります。この場合、曲がり箇所が増えると圧力損失も増大するため、曲げ角度や継手の数を最小限に抑える工夫が求められます。
特に長尺配管となる高層ビルや大規模施設では、配管の支持間隔、勾配、振動対策なども含めた詳細な設計が不可欠です。
隠蔽/露出配管の現場判断
隠蔽配管とは、壁や天井の内部に配管を通す施工方法で、内装の美観を損なわないメリットがあります。主に新築やリノベーション工事などで採用されることが多く、意匠性を重視する店舗やオフィスに適しています。
ただし、隠蔽配管は一度設置するとメンテナンスや配管交換が困難になるため、設計段階でのトラブル予防や将来的なアクセスの確保が重要です。また、天井内のスペース確保や耐火処理、防振措置も必要です。
一方、露出配管は施工性に優れ、点検や改修が容易です。主に工場や倉庫など実用性を優先する現場で使われます。ただし、配管が視認されるため、外観や配管保護対策には一定の配慮が必要です。用途や建物の性質に応じて適切な判断を行うことが求められます。
長尺配管や高低差の対応
業務用エアコンでは、大型商業施設や高層ビルに対応するため、冷媒配管が数十メートル以上におよぶ「長尺配管」が必要になることがあります。また、室外機と室内機の設置高低差が20m〜50mを超えるケースも少なくありません。
こうした長尺・高低差配管では、冷媒の戻り遅延やオイル不足、圧力損失による性能低下が起こる可能性があるため、特別な対策が必要です。たとえば、オイルセパレーターの設置や、油戻り配慮のスロープ設計、U字トラップの挿入などが行われます。
また、長尺施工では、施工後の真空引きに時間がかかり、漏れ検査の精度も要求されます。高所作業の安全管理や、落下防止措置など現場での対応力も含めた設計と体制が重要になります。
業務用エアコン|配管工事の工程と留意点
配管工事は、調査から設計・施工・試運転・引き渡しまで多段階にわたります。各工程でのミスが冷媒漏れや機器不良を引き起こすため、段階ごとに丁寧な対応が必要です。ここでは流れと注意点を整理します。
現地調査から打ち合わせまでのステップ
業務用エアコンの配管工事は、まず現地調査から始まります。ここでは、室内外機の設置場所、配管経路、既存設備の有無、電源の位置、排水経路などを詳細に確認します。また、建物の構造や搬入経路の確保、作業スペースの有無も重要な調査項目です。
調査結果を基に、設計者・設備業者・施主間で仕様確認や工法の打ち合わせを行います。この段階で想定される問題点を事前に洗い出し、工事中のトラブルを未然に防ぐことが目的です。配管経路の明確化により、必要な材料・工数・施工時間の見積もり精度も高まります。
配管・電気・養生の施工フロー
施工当日は、まず養生から始めます。室内外の機器設置予定場所や搬入経路を保護し、建物への傷や汚れを防ぎます。その後、撤去工事が必要な場合は、既存設備の取り外し作業を行います。
次に、冷媒配管・ドレン配管・電気配線の施工に進みます。配管はルートに従って切断・フレア加工・接続・断熱施工を順に行い、正確な勾配・固定・支持金具の設置が求められます。ドレン配管も排水不良を防ぐために正確な勾配が必須です。
電気工事では、電源線・制御線の配線と盤への結線作業を実施。すべての配管・配線が完了した後、施工状況を点検し、漏れ検査や電圧確認など初期チェックを行います。
真空引き・試運転・引き渡しまでの品質管理
施工完了後は、冷媒配管内部の空気や水分を除去する「真空引き」の工程に入ります。これを不完全に行うと冷媒の循環に支障をきたし、圧縮機の焼き付きや冷却不良などの重大トラブルを招く恐れがあります。
真空状態が安定したら、冷媒を充填し、機器の電源を投入して試運転を行います。このとき、冷暖房切替の動作確認、風量測定、異音・異常振動の有無、ドレンの排水状況、室温制御などをチェックします。
最終的に、施主への操作説明と保証書類の引き渡しを行い、引き渡し完了となります。記録の保存や検査項目の報告も品質保証の一環として重要です。
トラブルとリスクマネジメント──想定問題と対策
配管工事では、設計ミスや施工不良によるトラブルが少なくありません。冷媒効率の低下、漏水、騒音といった問題が後から発生するケースもあります。本章では、代表的なリスクとその対策を解説します。
長尺配管による効率低下とその防止
業務用エアコンでは、施設の構造上どうしても配管が長くなるケースがあります。しかし、冷媒配管が長くなると、冷媒の循環効率が落ち、冷暖房性能の低下や消費電力の増加を招くリスクがあります。特に配管が30mを超えるようなケースでは、圧力損失やオイル戻りの不良が発生する可能性が高まります。
対策としては、配管長に応じた適切な管径の設定、U字トラップの設置、オイルセパレーターの導入などが挙げられます。また、機器メーカーが指定する最大配管長・高低差の範囲を遵守することも重要です。施工前にこれらの条件を精査し、必要に応じて室外機の追加設置や分割施工を検討することで、トラブルの回避が可能です。
ドレン排水不良・漏水事故の防止
ドレン排水の不良や漏水事故は、施工後に最も多く報告されるトラブルの一つです。原因としては、配管の勾配不足、異物混入、保温不足による結露水の外部露出、排水先の誤設定などが挙げられます。特に隠蔽配管では漏水の発見が遅れ、建物への被害が甚大になる恐れもあります。
こうしたトラブルを防ぐためには、設計段階で十分な排水ルートと勾配を確保することが基本です。ドレンポンプの適切な設置や、配管接続部の気密性、保温材の選定と施工も重要です。定期的なメンテナンスや、ドレン確認口の設置によって、運用後のトラブルも予防できます。
搬入経路・電源トラブル・騒音対策
施工時や運用時に見落とされがちなリスクが、搬入・電源・騒音に関するトラブルです。搬入経路が狭い、階段しかない、エレベーターが使えないなどの場合、大型機器の運搬が困難になります。また、既存の電源容量が不足していると、ブレーカーが落ちたり、機器が正常に動作しないケースもあります。
これらのリスクは、現地調査時の入念な確認と、施主との事前協議によって防止が可能です。搬入ルートの確認、事前の仮搬入試験、必要に応じた電源工事の手配を行いましょう。
また、騒音や振動による苦情リスクにも注意が必要です。特に室外機の設置位置が隣接住宅やオフィスに近い場合は、防振ゴムや防音囲いなどの措置を講じ、稼働中の音の拡散を防ぐ配慮が必要です。
最新技術・効率化工法の紹介
近年、施工の簡易化や安全性の向上、CO₂削減などを目的に、業務用エアコンの配管技術も進化しています。ここでは、注目される新素材・新工法や、システム設計の高度化に対応する技術動向をご紹介します。
アルミ配管・火なし工法のメリット
従来、冷媒配管には銅管が主に使用されてきましたが、近年では軽量かつ環境負荷の少ない「アルミ配管」が注目されています。アルミ配管は銅に比べて約30%軽く、長距離搬送や高所施工の負担軽減に貢献します。また、銅価格の高騰や盗難対策の面でも、代替素材としての価値が高まっています。
さらに、従来はロウ付けに火を用いることが多かった冷媒配管工事も、現在では「火なし工法(フレアレス継手・圧着式継手)」が普及しています。これにより、火気使用禁止の施設でも安全に施工が可能になり、施工時間の短縮と作業品質の均一化にもつながります。
これらの工法を採用することで、全体の工期短縮、コスト削減、安全性向上が期待できるため、積極的な導入が進んでいます。
VRV・マルチエアコンの配管特性
VRV(Variable Refrigerant Volume)システム、いわゆるマルチエアコンは、1台の室外機で複数の室内機を独立制御できる高度な空調方式です。このシステムの導入により、冷媒配管の自由度が大きく向上し、長尺配管や高低差対応の柔軟性が高まります。
具体的には、配管長が最大1,000m、高低差も50m以上に対応可能なモデルも存在します。これにより、大規模商業施設や複雑な階層構造の建物でも柔軟な空調レイアウトが可能となります。
さらに、必要な空調負荷に応じて冷媒量を自動制御するため、省エネルギー性にも優れています。ただし、配管設計の自由度が高い分、施工ミスや設計不備による性能低下のリスクもあるため、メーカー仕様に準拠した設計と、技術教育を受けた施工者による対応が求められます。
施工品質を高める視点と次のステップへ
業務用エアコンの配管は、単なる設備工事ではなく、空調性能・省エネ性・安全性を左右する重要なインフラ設計の一部です。配管の材質選びから施工ルート、継手の処理、排水処理、安全管理まで、すべての工程に確かな知識と技術が求められます。設計者と施工業者、発注者が連携し、現場ごとの最適解を見出すことで、性能を最大限に引き出す配管施工が実現できます。
配管施工を伴う業務用エアコンの導入を検討されている方は、信頼できる施工会社や専門技術者への相談をおすすめします。まずは資料請求やお問い合わせから始めてみましょう。